大晦日というと様々なイベントがありますが、そのうちの一つに「年越し蕎麦」という風習があります。
我が家でも、大晦日の日の夕食というのは結構蕎麦が出てきたものです。それをすすりながら、紅白歌合戦や年末特番を家族で見ていたという記憶があります。
ところで、この「年越し蕎麦」という風習はどのような理由や由来があって始まったものなのでしょうか?
ハロウィンやクリスマスなどの異国からの文化を取り入れて炊き込みご飯のようになっている日本の風習の中で、この年越し蕎麦という習慣は日本独自の起源を持つもののはずです。
そんな日本が誇るべき伝統の意味を、私たち日本人が知らないとあってはちょっと悲しいですよね。ということで、こちらでは年越しそばの由来や理由、また「いつ食べるのか?」という疑問についてもお伝えしていきたいと思います。
年越しそばの由来や意味とは
まず、蕎麦自体の起源については日本では縄文時代草創期からの歴史を持つということはすでにお伝えしたところです。
蕎麦は凶作に強い作物として重宝され、現在のような「そば切り」の形で食されるようになったのは戦国時代からでした。
ひとまずここでは蕎麦そのものの歴史は置いといて、年越し蕎麦の歴史から紐解いていきましょう。
蕎麦自体が一般庶民へと広まっていったのは江戸時代中ごろの1750年代くらいからですが、「年越し蕎麦」の風習が広がっていったのもこの辺りの時期というのが定説です。
それだけ蕎麦が一般に広まってきたということなのでしょうね。
年越しそばの由来については諸説あるようですが、その中でも有力と思われるものが
- そばの”切れやすい”食感にあやかり、今年一年の厄を「断ち切る」としたもの
- そばの”細く長い”形にあやかり、長寿を願うとしたもの
の二つの説です。
この二つは、一見どちらも確かにと納得させられる部分もあるのですが、ここで疑問が上がる人もいると思います。「切れやすい」というのは長寿を願うには短命を示唆するようで縁起が悪いのではないか?ということですね。
つまり「厄を断ち切る」ことと「長寿を願う」ということは互いに相反するもので、トレードオフの関係になっています。どちらもあやかろうとすると矛盾が生じてしまうわけですね。
慣習というものは由来が諸説あって、それらすべてをうまく包括して複数の意味を担うということもできるものもありますが、この年越しそばに関しては違うようです。それと同時に、どちらかが真実で、どちらかが嘘であることの証拠でもあるのです。
厄を断ち切る説
まず「厄を断ち切るため」に切れやすい蕎麦を食べるようになったという説ですが、現代を生きる私たちにとっては疑問に思うところもあります。それは「蕎麦ってそんなに切れやすいものだっけ?」というものです。
たしかにうどんや中華麺に比べると切れやすいかもしれませんが疑問ですよね。
実は今の蕎麦と昔の蕎麦は作り方が少し異なります。
今の蕎麦というのはそば粉に山芋や卵などを「つなぎ」として混ぜて作るためそこまで切れやすいというものではないのですが、昔はそば粉のみで作っていました。
うどんなどには小麦自体に「グルテン」という伸びる成分が入っていますが蕎麦には入っておらず、非常に切れやすい食べ物だったのです。
そんなわけでこの切れやすい蕎麦を大みそかに食べ、その年の労苦や災厄をすべて断ち切って新たな気持ちで新年を迎えようとしたというわけです。「縁切りそば」だとか「借金切り」と呼んだというようなことも言われております。
うどんでもラーメンでもパスタでもなく、「そば」でないといけない理由というのもこの由来からすれば納得ですね。
長寿を願う説
次に長寿を願うために「細く長い」蕎麦を食べたという説ですが、個人的にはこちらの説は怪しいところがあるように思えます。
この年越しそばという風習は、江戸時代半ばに広まって当時は国民の半数が食べるようになるほど、一般庶民に広く知れ渡っていったものなのです。それが単に「長寿を願うために」だとしたらわからなくもありません。しかし、「細く長い」蕎麦を食べるというところにどうしても引っかかります。
長寿そのものが万人の願いかどうかという疑問もあるのですが、何よりも「細い」人生を好む人がどれほどいたのだろうか?という風に考えてしまいます。
「太く短い人生を生きたい」という人も当然いたでしょうし、「太くてかつ、長い人生を生きたい」という欲張りな人もいたでしょう。というか、普通なら「太くて長い人生」のほうが望ましいですよね。
そういった様々な死生観がある中で「細く長い」人生を生きたいと願う人が果たして国民の半数も存在したのか?という疑問を拂拭することができません。
そもそも長寿を願うために蕎麦を食べるというところまでは良いとしても、なぜ大晦日に食べるのか?という理由の説明はこの説だけでは不十分なところがあるように思えます。長寿を願うために食べるならむしろ、大みそかに限らず普段から習慣として食べていたほうが良いのではないでしょうか。
ということで、これは「厄を断ち切るために切れやすい蕎麦を食べるようになった」という説のほうが正しいものだと思います。
かつては大晦日限らず「晦日そば」という風に、毎月の月末に区切りとして食べていた習慣があったことも、その月の厄を切るという意味合いがあったのだろうと予想ができますし、後述のように年が明けてから食べてしまうと縁起が悪いといわれているのもこの説が有力であることを裏付けています。
長寿を願うためなら、別に年が明けて食べてもいいはずですからね。
この二つの説のほかには
- 脚気予防に効果のあるビタミンB1が豊富に含まれていることもあり、健康を願うために
- 金細工師が金銀の粉を集めるためにそば粉を使ったことから金運上昇のために
- 蕎麦が風雨にさらされてもすぐに元気になることから、失敗しても巻き返せるという意味で
- 鎌倉時代に博多の承天寺では年の瀬を越せない町人に「世直しそば」としてそば餅を振る舞ったところ、翌年から皆に運が向いてきたことから
年越しそばを食べるようになった、といういろいろな説があります。これらは上記のものとは相反しないので、どれも正しいのかもしれません。
ただ、こういう縁起物は本人の気の持ちようが大きいので、「自分は長寿を願いたいんだ!」と思うならそのような思いを込めて年越しそばを食べることも年越しそばの一つの在り方といえます。
年越しそばをいつ食べるのが正しいのか?
年越しそばという名前で勘違いしてしまう人も多いと思いますが、別に年をまたぎながら真夜中に食べるというものではありません。
大晦日であればいつでもよく、それは朝昼夕どの時間でも構いません。
除夜の鐘を聞きながら食べるという人もいると思いますが、これは年越しそばを食べるタイミングとしては縁起が悪いです。
上記のように「その年の厄を切る、縁を切る」というのが由来になっておりますので、年が明けてから食べてしまうと新年早々、すべての縁を断ち切ってしまうということになってしまいます。
また、「お金が出て行ってしまう」という縁起の悪さもあるようなので、年をまたいで日付が変わるまでに年越しそばを食べきりましょう。