「テンパる」という言葉がありますね。
イメージとしては緊張して慌ててしまうとか、精神的な錯乱状態を示すような時にこの言葉を使うことが多いように思えます。
でも、誰が初めに言い出したのか不思議に思うことってないですか?「テンパ」ってそもそも何なのでしょうか?天然パーマのことを「天パ」と言ったりしますが、それと何か関係しているのでしょうか?
ということで、今回は「テンパる」という言葉の本来の意味や、その語源などをお伝えしたいと思います。
テンパルの本来の意味や由来とは
日本語において、「名詞+る」という形で造語を作るというのは結構ありますよね。「テンパる」もその一つではあるのですが、これには二つの説が存在しています。
①麻雀用語「テンパイ」を語源とする説
麻雀にはテンパイ(聴牌)という言葉があります。これは、「あと一枚であがることができる」状態のことを指すのですが、このテンパイに至ったことを「テンパる」もしくは過去形として「テンパった」という風に表現します。
あと一枚であがれるというのは、いわば極限状態のギリギリということで、現在使われているような「テンパる」とは若干、意味は異なるもののニュアンスは一致しますね。
麻雀におけるテンパイというのは、「あと一枚であがれる」というワクワク感と同時に「自分より先にあがられたらどうしよう」という不安もつきまといます。もし上がったら大きな点数を得られる時ほどその不安が強くなります。他の人に安い手であがられて自分の手が台無しになってしまうかもしれないのですから。
また、テンパイをしても運が悪いとほかの人のテンパイに振り込んでしまうこともありますね。「あと一枚であがれるのだから」と、ちょっとやそっとじゃ勝負を降りずに結果として痛手を負うこともあるのです。
そんなギリギリの極限状態を指して「テンパる」というのはなかなか的を射ているかもしれませんね。
実は麻雀用語から広まった言葉にはほかにもあります。例えば「リーチ」。これも麻雀においてはテンパイと同じような意味合いになりますが、「あと1枚であがれること」という意味でビンゴやパチンコなどで使われていますね。
テンパイとリーチが異なるのは、テンパイは「あと1枚で上がれる状態」のことを指すのに対して、リーチというのは「あと1枚で上がれる状態になったことを宣言すること」という違いがあります。
宣言することで相手を警戒させ、他者からの振り込みの可能性が低くなる代わりに役が一つ上がります。もしくは「あと1枚で上がれる状態になったこと」をあえて宣言して脅し、相手に勝負を避けさせるというブラフとしての意味合いもあります。
さらには安パイ、メンツなどという言葉も麻雀用語が語源になっていますね。
これだけ麻雀用語が日常に広がっているという事実、外堀りがあると、「テンパる」が麻雀用語に由来しているという説も真実味が増してきますね。
②temper(怒り)という英語を語源とする説
もう一つは、temperという単語に「る」を付けたものが語源になっているという説です。
temperには気分・気性・短期・怒りというような意味があり
fly [get] into a temper 怒りだす.
in a good [bad] temper きげんよく[悪く].
in a temper / out of temper 怒って.
keep one’s temper 怒りを抑える.
lose one’s temper 腹を立てる.
show temper 怒る.
というような形でtemperという言葉を使ったりします。
一見、正しいような説にも思えますが、実はtemperという言葉にはこれ以外にも「落着き」や「平静」という、正反対の意味をも持っています。要は「気分全般」として使うのが自然なんですね。
88年の「現代若者コトバ辞典」にも「テンパる」が「女性語」として載っているようですが、それ以上はどうにも不明瞭で、今調べられる時点ではその辞典自体が最も古い由来になっています。
帰国子女あたりが言い出したという風にも言われていますが、これにも疑問が残ります。確かに、帰国子女で日本語と英語が話せる人というのは会話の中で気分が高揚したときにふと英語が出てしまったりすることはありますが、そういう時って大抵、英語は英語として、日本語は日本語としての文章で話しますよね。
こんな和製英語みたいな使い方をあえてする必要があるのだろうか?と思ってしまいます。絶対言いにくいと思うんですよね。
どちらの説が正しいのかというと、やはり麻雀のテンパイを語源とする説のほうが真実味がありそうです。上記で述べたように、ほかの麻雀用語も浸透しているということもありますし、何より言葉が流行るためには「一定程度の市民権があること」が条件だと思います。
すでに麻雀用語として存在していた「テンパイ」と、それほど語感がいいわけでもない、誰が言い出したかもわからない「temper」では前者の方に軍配が上がるでしょう。
まあこのように諸説あるものの、「テンパる」という言葉は80年代ごろから一定程度の市民権を得て使われていたようですが、そこまで一般に浸透するということはなく、2000年頃から若者言葉として使われるようになりました。
この頃になると「目一杯の状態になる」「焦る」というようなマイナスの意味で使われるようになりました。
なぜ急にこの頃になって「テンパる」が使われだしたのか?誰が言い出したのか?という疑問は正直、謎です。これは個人的な意見ですが、2000年頃というのは、ちょうどインターネット普及率が50%を超えだした頃です。インターネットの拡散力というのはすごいですから、おそらく「テンパる」という言葉も「名無し」さんが使ったことで広がり、誰が言い出したかわからない「詠み人知らず」な言葉として広まっていったんじゃないでしょうか。