「ピンキリ」ということがあります。
ピンからキリまで、なんて言うように、いいものから悪いものまで、頂点から底辺までいろいろな種類なものがあるというイメージで使われますね。
しかし、ピンとキリでどっちが上なのかということはご存知でしょうか?「ピンからキリまで」とだけ聞いても、上から下までという意味にも、正反対の下から上までというどちらの意味でも通じそうなものです。
ということで、ピンキリの意味や由来・語源を調べてそこからどっちが上なのかというのを明らかにしていきたいと思います。
ピンキリの意味・由来・語源
ピンキリという言葉が使われていた歴史というのは結構古く、その起源は室町時代にまでさかのぼります。
正確に言うと「ピンキリ」自体は略語であって、「ピンからキリまで」というワンセットの言葉が生まれたのももう少し後の時代のことなので、「ピン」「キリ」それぞれの言葉が生まれたのがこの時代ということですね。
この頃というのは海外との交流が盛んになる時代で、ポルトガルから天正カルタというものが日本に入ってきました。このカード遊びにおいて、1点のことを「ピン」と呼んだことに始まります。これは、ポルトガル語で点数を意味する「pinta」が語源になっているものと思われます。
オイチョカブという花札のゲームをやったことがある人ならクッピンとかシッピンという役をご存知だと思います。クッピンは9と1の組み合わせで、シッピンは4と1の組み合わせ。クッピンの「ク」は当然9から、シッピンの「シ」は4から来ており、ともにピンは1を意味することがここからも読み取れますね。
あるいは、丁半博打などでも1の目が二つ出ることを「ピンゾロ」と言ったりしますね。漫画「カイジ」の地下チンチロ編においてカイジが班長を打ち倒したのも「ピンゾロ」であったことが思い浮かびます。
現代では「ピン芸人」という言葉もあります。
「一番最初」という意味だけでなく、一番低い点数であることから「最低」という意味も含んでいました。
一方の「キリ」もこの天正カルタを由来とした言葉で、天正カルタにおいてはカードが12枚あり、12の札のことを「キリ」と呼びました。つまり「一番最後」ということですね。なぜ終わりのことを「キリ」と呼んだのかということについては、「限り」が転じてキリになったという説が最も有力です。
他には1~10を一区切りとし、 10→十字→十字架→cruz と転じていったという説や、花札の12の札が桐の花だったのでそこから「キリ」とした説があります。
あるいは、区切りが良いことから区切りの「キリ」とした説もあります。
これをそのまま受け取るなら、ピンのほうが下で、キリのほうが上のように思えます。おそらく、当初はそのような意味で使われていたものと思われます。
江戸時代に入ると、「ピンからキリまで」と、慣用句として1セットのフレーズが使われ始めます。これは現在でも使われているような意味と同じで、「良いものから悪いものまで」とか、「最上位から最底辺まで」といった意味で使われます。
元々、ピンとキリはどっちにも取れるような意味として使われていましたが、この慣用句が生まれたことで、その順番に倣う形でピンが良い方、キリが悪い方として定着します。
一番最初が偉いという考えは、家父長制度が主流だった頃に「一番偉い父親」が最初に風呂に入るということからも理解できますし、いやいや一番最後のほうが偉いという考えも、紅白歌合戦で長らくサブちゃんこと北島三郎がトリを務めていたことからもわかります。
そして、昭和の後期になるとピンからキリまでをさらに略して「ピンキリ」という言葉で使われるようになります。
ピンは今ならピン芸人という言葉として使われますし、キリも「これっきり」とか「きりがいい」などと日常生活に溶け込んでいますね。丁半博打なんかではサイコロの1が二つ出ることをピンゾロなんて言いますね。
ピンキリの意味
ピンキリの意味については
・いいものから悪いものまで
・最高から最低まで
・高級品から低級品まで
・上質なものから悪質なものまで
・極上の品から最低の品まで
・価値の低いものから高いものまで
・下等なものから上等なものまで
といった、多様性を意味する言葉として使われますが、「初めから終わりまで」といった意味でも使われます。しかし、「ピンからキリまで付き合うよ」という言葉はあまり聞かないですね。「ピンキリ」という略称が広まったことも大きいのでしょうか。
まあ、こんなことを言ってしまっては身もふたもないのですが、言葉というのは時代とともに変化するものであって、言葉の本来の意味ということを考えることにあまり意味はありません。
たとえそれが誤用であったとしても、「大多数が正しいと思っている」のならば、それが正しいものとして扱われていくのです。
今ではピンが最上、キリが最低という意味で大多数の人が捉えているのならばそう使うべきです。言葉の本懐というのは「伝えること」であって、あくまでも伝えるための手段として存在しています。意図さえ伝われば、それが正しいか誤用かはあまり関係のないことなのです。
逆に言うと、それが正しい言葉だとしても伝わらなければ意味がありません。「ピンからキリまで付き合うよ」という言葉を使っても、それを相手がわからなければ何の意味もありません。そこに「ピンからキリまでというのは室町時代に生まれた言葉で初めから終わりまでという意味もあって・・・」なんてウンチクを語りだそうものなら、うっとうしいことこの上ないですからね。