「割愛」という言葉がありますが、おそらく「省略」と同じような意味で使っている人がほとんどなのではないでしょうか。
省略は文字に「略」という漢字が入っているようにそのまま略するという意味ですが、この「割愛」をそのままの意味で受け取ると「愛を割る」とか「愛を割く」という風に書きますよね。なんとも物騒な話なのですが・・
一体何が由来になって本当はどのような意味を持つのでしょうか?気になったので「割愛」の語源について調べてみることにしました。
割愛の意味・由来・語源とは?
実は「割愛」の語源はその文字通りと言いますか、「愛する気持ちを断ち切ること」という意味でした。
これは、とある生物の生態から来ています。それは蚕です。
元々は「割愛」という言葉は養蚕用語でした。蚕というのは雄と雌が交尾の時にかなり固く結びついて離れようとしません。それこそ一日中かもしくはそれ以上の時間結ばれたままでいるそうです。
それだけなら仲睦まじいな、で済むのですがそれが時には卵を産みはじめる前に弱ってしまうほど長いことくっついていることもあったりして、交尾をしていない雌が出てきて不受精卵を産卵することになります。これを割けるために無理やり引き離すのですが、これを「割愛」と言うのです。文字通り、「愛を割る」ということですね。
これが日常においても使われるようになっていったのですが、この由来からもわかるように同じような意味として使われる「省略」よりも「本当はそうしたくないが仕方なく」というニュアンスが強くなります。なので、「惜しいと思うものを捨てたり手放したりすること」が割愛の意味という風になります。
「こちらは必要がないので省略します」
という言い方に対して
「こちらは時間の都合上割愛します」という言い方をすることで「省略」と「割愛」を使い分けることが出来ますね。
この辺りは、何らかのプレゼンなどをする際によく使う言葉だと思いますが「こちらについてはお手元の資料をご覧いただければお分かりになると思いますので割愛します」という使い方は誤用という風になります。この場合は不必要だから切り捨てる、という意味なので「省略」が正しい使い方ですね。
これを裏付けるものとして、例えば教育界において教員がA大学からB大学へ移籍する際に、移籍先のB大学からA大学に対して「割愛顧」というものがあったり、航空業界においても民間のパイロットが不足した際に自衛隊が推薦して民間に移籍させることを「割愛」と呼んだりします。
どの業界においても人材は宝です。その宝を無下に扱うようなことがあっては組織としての伸びしろは無いと言えますから、言葉一つでも慎重になりますよね。その人事において「不必要なものを切り捨てる」の意で割愛という言葉は使うはずがないですね。これはやはり、割愛の本来の意味が「惜しいと思うものを仕方なく手放す」ことから来ているという間接的な証拠でもあるのです。
この割愛の正しい意味について知っている人というのが、文化庁の調べによると2割以下になり、ほとんどの人が「不必要なものを切り捨てる」という意味で使っているそうです。
本来の意味とはまるで正反対の意味で捉えている人がこれほど多いと、本来の意味で使うほうが逆に誤解を受けてしまう事態が考えられますね。
間違った意味で理解している人の方が「割愛とは失礼じゃないか!そんな冷たい言い方をするな!」とお門違いの文句を言う様が目に浮かびます。
ここで、「割愛の本当の意味というのは・・・」と頭ごなしに理屈をぶつけてしまえば、相手はさらに強硬な姿勢に出ることでしょう。なので、何が正しくて何が間違っているという紛うことなき正論を言うのではなく「相手が誤解する可能性もある」ということを念頭に置きながら言葉を発する、ということを心がける必要があるでしょう。
なので、最終的な結論としては「割愛」そのものを使わないほうが良い、という身もふたもないものになってしまいますが・・・次点で「非常に惜しいですが」「誠に心苦しくはありますが」と前置きをしてから「割愛する」という風に使う、というのが現実的な落としどころでしょうか。