「ごめんあそばせ」という挨拶があります。
現代においては実際に使っている人はほとんどおらず、昔を描いたドラマなどのフィクション作品や嫌味な金持ちのキャラクターが出てくるときに耳にするくらいでしょう。
何か粗相があった際に謝る言葉というのはわかるのですが、もしそうなら「ごめん」はともかくとして「あそばせ」とは一体何なのでしょうか?
ということで、こちらでは「ごめんあそばせ」の意味・由来・語源などについてお伝えしたいと思います。
ごめんあそばせの語源とは
「ごめんあそばせ」は何が語源になっているのかというと、大まかにわけて二つの説があります。
一つは西南戦争の頃に他県から熊本に集結した士族らが別れの挨拶の時などに使った「御免阿蘇馳せ参じ奉る」という言葉が語源になっているとする説です。
阿蘇といえば熊本県にある「阿蘇市」が有名ですね。つまりこの「御免阿蘇馳せ参じ奉る」というのは現代風に訳せば「悪い。阿蘇へ急いでいくんだ」という具合になります。これを他県から戦場である熊本へ向かう際に士族が使ったのです。
もう一つの説は、江戸方言や江戸の芸者言葉が起源となっているというというものです。
「ごめんあそばせ」という言葉は明治の鹿鳴館などで多く使われたようですが、これは鹿鳴館時代の大臣職の人には芸者を奥さんにもらった人が多かったことが要因のようです。そのため、「ごめんあそばせ」に限らず、このとき奥さんになった芸者さんたちがいわゆる「お嬢様言葉」のルーツとなったという見方もあります。
実際、「ごめんあそばせ」は昭和初期くらいまでのご婦人が使っており、この説を間接的に裏付けております。
前述の「御免阿蘇馳せ参じ奉る」というのは、その後どのようにして広まっていったのかが不明でいまいち信ぴょう性に欠けるため、おそらく芸者さんが起源となっているという説のほうが正しいのでしょう。
ここから転じて、「遊ばせ」という漢字になり「遊ばせ言葉」として主に女性が使う上品な言葉として使われていくようになります。日本語の中では比較的新しい言葉と言えるでしょう。
ごめんあそばせの意味とは
「~する」の尊敬語である「~なさる」を言い換え、最上級の尊敬語としたのが「遊ばす」であり遊ばせ言葉です。文法で言うなら「あそばせ」は遊ばすの命令・依頼形という風になります。
「ごめんあそばせ」以外にも「お取りあそばせ」「御覧あそばせ」といった使い方や、あとはあまり聞きなれないですが「いかが遊ばれましたか?」なんて使い方をしたりもします。
主に女性が使う上品で丁寧な言葉使いだったのですが、転じてお金持ちが庶民を小馬鹿にしたような意味を含むようになっていきました。
まあ、これは庶民からしたらこんな言葉遣いをしている人を見かけたらさも「自分は金持ちだ」と言っているように聞こえたでしょうね。そんな庶民の嫉妬からこのような嫌味な意味になっていくのは当然でしょう。
このあたりは、前述のように元々は最上級の敬語としていわば「格上」の人物に対して使っていたのがいつしか同格以下にも使う「丁寧語」へと変化していったという使い方の変遷も関係しているようですね。それ故に嫌味な言い方に聞こえてしまったのでしょう。
実際、現代でこの「ごめんあそばせ」を使うと奇異の目で見られることは明白です。
職場で使っていたらそれが同僚たちの間の話題になり、「生遊ばせが聞けた!」などと喜ばれたという話があったようです。
結局は言葉というのは話し手と聞き手の相互関係にありますので、聞き手が違和感を覚える以上はコミュニケーションに齟齬があるということの表れですから、上品であろうと使わないほうが無難です。
とはいえ、ジョークとして使う分にはなかなかに面白いので、その本来の意味を知っておくことは悪いことではありません。