イタリア料理の中に「カルパッチョ」という料理があります。
ピザ、パスタなどイタリア料理はもはや日本でも国民食と言えるほどの知名度がありますが、このカルパッチョに関してはまだそこまでのレベルには至っていないと言えるでしょう。
それは、ピザやパスタと聞いてすぐに頭に思い浮かぶのに対して「カルパッチョ」と聞いてもなかなかすぐにはイメージがわかないということを鑑みれば分かります。あるいは、子供や老人でもわかるかどうかという違いがピザ、パスタとは違うところではないでしょうか。
あまり馴染みがない言葉なのでどこか滑稽さも感じるカルパッチョですが、ここではそんなカルパッチョとは一体何なのか?その意味や由来についてお伝えしたいと思います。
カルパッチョとは?その意味や由来は?
カルパッチョという料理について、辞書的な説明をするならば
生肉や魚介類を薄切りにして、そこにマヨネーズやマスタードを混ぜ合わせたソース、オリーブオイル、パルメザンチーズなどをかけたもの
という風になります。イタリア料理版の「お刺身」というのが最もわかりやすいでしょうか。かけるものが醤油か、オリーブオイルなどのイタリアンなソースをかけるか、という違いがありますね。
このカルパッチョという料理は比較的歴史が浅く、考案されたのは1950年のことです。ベネチアの「ハリーズ・バー」というレストランの創業者であるジュゼッベ・チブリアーニという人物が作ったのが最初です。この人物の名前からしてもそうなのですがイタリア人の名前は覚えづらくて変な名前が多いですよね。
そしてそれはカルパッチョも例外ではありません。カルパッチョの名前の由来は、何を隠そう「カルパッチョ」という人物名からきております。
ルネサンス期の画家である「ビットーレ・カルパッチョ」からカルパッチョという名前が付けられました。
なぜイタリア料理に画家の名前が付けられるようになったのでしょうか?
そもそもカルパッチョという料理は、店主であるジュゼッベ・チブリアーニが常連客の伯爵夫人に「脂が滴るような肉料理を食べることを医者から禁じられた」という風に相談を受けたことから生まれました。
チブリアーニは伯爵夫人が大の肉料理好きであることを知っていたので、その彼女の相談にこたえるために脂が少ない牛ヒレ肉を薄くスライスしてドレッシングをかけるという創作料理を提供しました。伯爵夫人は大変喜び、その創作料理の名前を尋ねたところ、チブリアーニはとっさに「カルパッチョでございます」と答えました。
これは、1950年当時、ベネチアの街でビットーレ・カルパッチョの回顧展が開かれていたことにちなみ、そのカルパッチョの絵が鮮やかな赤と白を用いたものだったことからきております。
確かにカルパッチョというものは、生肉などの赤を基調に、オリーブオイルの黄色、ルッコラなどの野菜の緑、パルメザンチーズの白など色彩が豊かで見た目によっても食欲をそそる料理となっておりますね。そこに芸術作品の美しさとかけるというのも納得です。
それにしてもこのエピソードからすると、おそらく店主のチブリアーニは伯爵夫人の相談を受けてとっさにその料理を作ったということですから、当然料理の名前なども考えてはいなかったはずですよね。しかし伯爵夫人に限らず、見たこともないおいしい料理があったら名前を知りたくなるのが人間の性というものです。
そこで名前を問われて「すみません、名前はないんです」では常連客である伯爵夫人に恥をかかせてしまうということで咄嗟に出た名前がこの画家の名前だったとなると、なかなかおつだな、と思いますね。
ちなみに、この由来のほかにもビットーレ・カルパッチョ自身が薄切りの生牛肉にパルミジャーノ・レッジャーノをかけた料理を好んだという説などもありますが、現在イタリアで定着しているのはここであげた伯爵夫人への創作料理だったというものです。
ともかく、そんなことから創作料理であるカルパッチョの歴史は始まりました。はじめはカルパッチョというのは牛肉のみのことを指していましたが、いつしか魚介類などのカルパッチョも生まれ、薄く切った生もの全体のことをカルパッチョと呼ぶようになっていきました。
そして日本においては似た料理に刺身があるというのは前述のとおりですが、そのお刺身を食べる風習から日本でもカルパッチョは広く受け入れられ、マグロなどを使った日本オリジナルの和風カルパッチョなども誕生するに至りました。
カルパッチョとマリネの違い
ところで、生の肉や魚介を使ったイタリア料理というとカルパッチョのほかに「マリネ」が思い浮かびます。
カルパッチョというのが上述のように料理名であるのに対して、マリネというのはあくまでもその「調理法」のことを指します。
マリネというものは、具材は肉や魚介類など多岐にわたりますが、それをワイン、酢、油、レモン汁、香辛料などを入れて作る漬け液に浸すことで作ります。
つまり、理屈の上ではマリネで作ったものをカルパッチョとして提供するということもありますがマリネ液に漬けていたものはどうあってもマリネでしょうし、漬けていないものはカルパッチョという風になるでしょうね。