「おい!貴様ら!」

「貴様らよくも・・・!」

「貴様!見ているなッ!」

 

そんな、悪役やライバルたちの台詞が思い浮かぶこの「貴様」という言葉。これらの使い方からしても、普段はあまり使うことがないですし使うとしても後に続くのは罵りでしょう。

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しかし不思議なのは、「貴様」という言葉は字面だけ見ると尊敬語にしか見えないということです。

 

「貴」なら貴方や貴社といった言葉があり、「様」ならそのまま~様、と個別の漢字はいずれも尊敬語として使われているのに、なぜこれら二つが合わさるとこのような攻撃的な意味になるのでしょうか?

 

ということで、「貴様」の本来の意味や語源、尊敬語かどうかということをお伝えしていきたいと思います。

 

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貴様のアカウントの・・・

この「貴様」という言葉に含まれるニュアンスは、その字からは読み取ることができない、相手を罵る意が含まれています。

 

以前、三菱東京UFJ銀行を騙る詐欺メールが流行ったことがあります。そのメールはYahoo!メールから送られているという露骨な詐欺メールで引っかかった人もほとんどいないとは思いますが、その詐欺メールの一文に

 

「システムセキュリティのアップグレードのため、貴様のアカウントの利用中止を避けるために、検証する必要があります。」

 

というものがありました。

 

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天下の三菱東京UFJ銀行がこんな失礼な物言いをするはずがなく、日本語に疎い外国人の詐欺師が送ってきたものであることが明白ですね。とはいえ、日本人にしかわからないのも仕方ありません。「貴」と「様」でどこからどう見ても尊敬語なのですから。

 

貴様の意味の変遷の歴史

中世末ごろ、室町時代末期ごろから武家の間で主に男性が用いてきたこの「貴様」は、かつては文字通り敬語としての二人称で「あなた様」という意味を持っていました。そしてそれは、主に文章で用いられる言葉であって口頭で使うことはありませんでした。

 

現在でも文面では「貴社」、口頭では「御社」といった具合に使い分けをしますよね。

 

これが近世後期頃、江戸時代になると口頭語として用いられはじめ、また武家のみならず一般庶民も使い始めたためにその「尊敬語」としての意味合いが薄まりました。

 

大衆に知られるということは、それだけ俗っぽさが増すということでもありますからね。これは江戸時代中期の話です。ただ、まだこの時代はかつての意味を少し残したまま、「自分と同輩か目下の者」に対して敬意をもって接するときの二人称でした。

 

「貴様」の意味が変わっていったのは旧日本軍によってでした。

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日本軍において、上官が部下に対して尊敬の意味を含めて「貴様」という風に呼んでいました。戦争映画などでは、この「貴様」という言葉が頻繁に使われているのを耳にしたことがあると思います。これは、日本国民は皆等しく「天皇の子供」であり、軍隊はその天皇の子供を預かっているので、たとえ下っ端であっても等しく尊敬の念をもって接する、という理屈なようです。

 

「貴殿」とか「貴公」といった感じですね。これらと同じニュアンスで「貴様」は使われていました。

 

部下が目上の人に対しては「貴様」ではなく、階級で「小隊長殿」といった具合に呼んでいたようです。

 

とはいえ、これはあくまでも建前であって、全員が全員、部下に対して尊敬の念をもって接するというラブ&ピースな世界が作られるわけではなく、部下に対して人を人と思っていないような辛辣な態度を取る上官も存在します。

 

そしてそういった上官は、態度は悪いのに二人称は建前上「貴様」と尊敬の念をもって呼びかけるわけですね。

 

以前、軍隊に入隊した人らが兵役を終えて家に帰った際に、軍で習ったカレーの作り方を家に持ち帰ったことで日本中にカレーが広まったという歴史があることをお伝えしましたが、この「貴様」もカレー同様、国中の若者や老人が体験し、またそれを女性も近くで見ていたため、この貴様の新たなイメージは日本中に定着していきます。

 

カレーの歴史についてはこちら

 

その軍隊においては目上の人に対して階級で呼びかけるのに対し、もっぱら同輩もしくは目下に使われるのがこの「貴様」という明確な棲み分けがされていたことも、現在のような目下に使う言葉として定着した要因でしょう。

 

こうした経緯があるために、「貴様」の意味を辞書で調べてみると

 

1,男性が、親しい対等の者または目下の者に対して用いる。また、相手をののしる場合にも用いる。おまえ。「―とおれ」「―の顔なんか二度と見たくない」 

2,目上の相手に対して、尊敬の気持ちを含めて用いた語。貴殿。あなたさま。[補説]中世末から近世中期までは文字通り尊敬の意を含んで用いられたが、それ以降はしだいに尊敬の意は薄れ、近世後期には現代とほぼ同様に用いられるようになった。「―もよろづに気のつきさうなる御方様と見えて」〈浮・一代男・一〉

 

と、完全に正反対の意味を二つ持つというちぐはぐな言葉になっております。

 

まあ、いくら「辞書にあるから」といっても目上に使う言葉としてよりは完全に相手をののしる言葉のイメージが強いでしょう。実際に、この言葉を「敬語」として就職活動の学生が面接官に対して「貴様」と言い放ったという話もあります。

 

その学生がどうなったかはわかりませんが、まあそれは指摘すれば直るだけの話ですからね、もしかしたらその会社に拾われて正しい日本語を教え込まれているのかもしれません。